『命あるものたちのせつない思いが、美しく圧倒的な迫力で語られる』
きつねの恩返しの民話は全国にあるらしいが、この再話には恩返しの部分がなく、「いとしげな若い女」が雨の夜についてきた、で始まる。そこがかえって、たとえけものであろうと、命あるものの情愛の深さを感じさせる。
とりわけ素晴らしいのは、満開の椿に見惚れて正体を現してしまう場面。二ページにわたる椿の絵は圧巻。また、ぼうややとっつぁの前で、きつねの姿にもどってみせるかかの行動からは、潔いあきらめが伝わってきて、胸に痛いほど。
摂津の話が有名なようだが、この本では「なじょうも」「…… すけ」など、東北の言葉に近いものが使われており、いにしえの日本人の言葉を聞くように、美しく心に響いてくる。日本人の自然との深い関係に改めて感動させられた。